ササノコウ

酔いどれ酒匂ささの呟き 時々 活動記録
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# 週刊ササノコウ 第18回「鮎川と柚木 夏のこと」
 あるところに、鮎川と柚木という男がいた。

 土地の名士のひ孫である鮎川は、生気のない幽霊のような男で、方や柚木は樫のような巨体をした豆腐屋の三男坊である。傍目に不釣合い極まりない二人は、しかし妙にウマが合うようで、男二人つるんでばかりいる。

 こいつが豆腐屋の息子でさえなかったら、腐る前に縁もバッサリやれたものを惜しい、惜しいと、豆腐が好物の鮎川がにやにやと憎まれ口を叩けば、一方の柚木もにやにや、何も言わずに聞いている。そんな二人である。

 ある日、鮎川が縁側に座して庭を眺めていたら、垣根の向こうから柚木の顔がぬっと現れた。次いで、にっと笑いながら何かを突き出して寄越す。両の掌に収まるほどの竹ざる、成程ざる豆腐である。まだ日もあるのに、豆腐を肴に早々と一杯やろうというのか。

「鮎川、やろうよ」

 案の定、柚木はそう言った。

「ああ、入れよ」

 鮎川が、素直に言って返したのは珍しいことだ。常ならば皮肉の一つ二つあるものを、今日は柚木に皮肉を言う間すら与えずに、差し出された豆腐を引っ掴んで、鮎川は家の中へと消えていった。

 柚木が律儀に玄関口から居間へと上がると、鮎川がいそいそと、この男らしくない身軽な所作で台所へ引っ込むのが見えた。すぐさま麦酒の瓶を一本、皿を二枚、箸を二膳に濡れた手拭いなぞを抱えて戻ってくる。柚木も勝手は知り尽くしていると、居間の棚から硝子のコップを二つ、取り出して卓袱に並べて待っている。

「さあ、やろう」

 鮎川が腰を落ち着けながらに言う。付き合いが長いもので、傍目に見えずとも鮎川が浮き取っているのが柚木には良く分かった。

「ああ、やるか」

 先ずは、と柚木は鮎川のコップに麦酒を注いでやった。それから己のコップへも麦酒を注ぐ。柚木がコップに手をかけるのを待って、乾杯はせずに、鮎川は勢いよく麦酒をぐびぐびと飲み干した。そして急くように豆腐へ箸をのばす。柚木も遅れてぐびぐびとやって、互いのコップに麦酒を注ぎ足した。

「旨いなあ」

 柚木が、コップを手にほうと漏らす。

「お前のところの豆腐は旨い」

 口の中から白いものを覗かせて鮎川が言う。
 まだ日の高い、蝉の声が降る日のことである。
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