ササノコウ

酔いどれ酒匂ささの呟き 時々 活動記録
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# 週刊ササノコウ 第17回「たゆたふ」
彼女が水生になったのは、もう随分前のこと。
「なんだか息苦しいね」
高校生だった彼女は言って、翌日から学校に来なくなったらしい。
 らしい、と言うのも、彼女より二つ年上で当時受験生だった僕は、彼女の変化にしばらく気付かないままでいたのだ。

 なんにせよ僕が彼女を訪ねたとき、彼女はすでにバスタブに張った水の中だった。人類の特性上、呼吸はきちんとするようだけど、水の中にもぐっているときがどうやら安らぐようだった。以来今日に至るまで、彼女はずっと水の中で生きている。変化といえば、バスタブは大きな水槽に変わって、それが僕の家にあることぐらいだろう。

 僕が朝起きると、彼女は眠っているようだった。温かめにした水の中にぷかぷか浮いて、長い長い髪をゆらゆらさせている。眠っているとはいえマナーだろうと僕は彼女から見えないところで着替えをすませ、食事をし、水槽の端の方へ彼女の朝食と昼食を浮かべ、仕事に出た。彼女は未だ目を覚ましてはいない。ぷかぷかゆらゆら、眠ったままだ。

 僕は仕事の最中、時折彼女のことを考える。僕がいない間の彼女はなにをしているだろう。水の中をやっぱり泳いでいるだろうか。浮かべた朝食を食べ、一泳ぎし、昼食を食べ、退屈したら一眠りでもしているのだろうか。あの水槽から僕の部屋を眺めると一体どんな風だろう。

 そんな風に一通りの想像をところで、決まってある不安が過ぎる。もしや、今頃彼女はあの水槽を出て、水槽にいることを疑わない僕をくすりと笑いながら男と街を泳いでいるのかもしれない。水にぬれた髪をドライヤーで乾かし、化粧をした見知らぬ顔で微笑んでいるんじゃないか。考え出したら不安のどん底にいるような気持ちになって、夕方仕事を終えるなり僕は早足に家路を辿ることになる。

 僕が家へ帰ると、水槽の中の彼女がいつもの顔でにっこりと笑って「おかえり」と唇を動かした。それから、「どうしたの」の形に動く。その度にこぽこぽと大小空気つぶが水の中をのぼっていく。ああ、馬鹿なことを考えたものだ。僕はようやっと不安の底から浮上して、水の中の彼女へ「ただいま」と笑うのだった。
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